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食っていいんだよ

 私の忘れられぬ悲しい思い出…

 今年もまた、私が大好きだった友人の命日が遣って参ります。

 彼が他界いたしましてから、もう何十年という時が経ちましたが、思えばあっという間でございました。

 私は先日、お墓参りに行ってまいりました。

 彼の大好きだった甘いお菓子を山ほど抱えて…。


 彼との出会い…  

 小学二年生の時、転校生だった彼の体は非常に細くて弱々しく、いきなり付けられたあだ名が 『鶏がらスープ』、すぐに悪ガキどもの『イジメ』の対象となってしまいました。

 彼は、実に可愛そうな少年でございました。

 幼い頃に両親が他界し、厳しい叔父夫婦に引取られて育てられていたのです。(後で知った話です)

 彼の痩せ細った身体は尋常でなく、食事も満足に与えてもらえていないのではないか…と思ってしまうほど、非常に厳しい家庭の事情があったようでございます。

 しかし、悲しきかな… そんな事情を知る由も無い悪ガキ連中は、まったく反抗をしてこない彼をいいことに、連日容赦なく殴る・蹴るの暴力的なイジメを繰り返しておりました。

 ところが…、どんなに蹴られても殴られても、顔や体に大きな痣を作ろうとも、彼の親族(叔父夫婦)はまったく何も言ってこない…。

 普通の家庭でありますれば、『うちの子供に何をするか!』と、悪ガキどもはえらい剣幕で怒られるのが当たり前でございましょう。

 しかし、現実的には彼を庇ってくれる人は、周りに誰もいなかったのでございます。

 泣くことも許されていなかったせいか、目の奥に涙をためて、流れ落ちてこないように、いつも震えながら必至で堪えておりました。

 やがて、そのことに気が付いた私達は、彼に対するイジメ行為をパタッとやめてしまったのです。


 いつも独りぼっちだった彼。

 しかし、そんな彼にも唯一の友達ができたのです。

 それは、学校の帰り道にある小田公園という名の広い公園で、だいぶ以前から住み着いている、色は茶色でこ汚く、実に体裁の悪い捨て犬でございました。

 過去に人間様からよほど酷い目にあった経験があるらしく、その犬はやたらと人を怖がっており、まったく近付こうともない比較的おとなしい犬でございます。

 彼は、そんな犬をかわいがり、一緒に遊んでおりました。

 私達は子供ながらも彼の優しさを理解し、少しずつではございましたが、彼と仲良く遊べるようになっていったのでございます。

 そんあなある日のことでした。

 クラスの仲間が、その日の給食に出たコッペパンを、それぞれが半分ずつ残し、残飯整理用の大きな袋に入れて『犬の餌に』と、彼に手渡したことがこざいました。

 大喜びの彼は、放課後さっそく公園へ向かい、数十個もあるパンの切れ端を犬の前に広げました。

 一緒に付いて行った私達も、犬が喜んで食べる様子を楽しみにしておりましたが、どうしたことか犬は警戒している様子であり、なかなか思うように食べようとはいたしません。

 すると、彼は犬に向って大きな声で言いました。

 『食えよ… 食っていいんだよ!』

 普段あまり口もきかず、表情らしきものを見せたがらないはずの彼が、この時ばかりは別人のように、それこそ身振り手振りで犬を嗾けました。

 しかも、涙目になりながら…

 『食えよ…、お前が全部食っていいんだよ!』

 今にして思いますれば、これは彼の悲痛な叫び声だったに違いございません。

 彼だって食べたい時には食べたかった。

 犬の気持ちを一番理解していたのは彼でした。

 遠足でも、満足なオヤツを持たされたことはなく、いつも誰かのおすそ分けを大切そうに食べていた彼。

 我々の世代で、そんなことまで抑制されている子供は一人もおりませんでしたので、そのときばかりは彼の悲しい気持ちを理解してあげることができませんでしたが、長いこと人生経験を経た今では、痛いほど彼の気持ちが解ります。

 義務教育を卒業後、彼は地元の定時制高校へ通いながら実社会へ出てしまいましたので、その後はなかなか再会する機会もなくなってしまいましたが、毎年欠かさず送ってくれた年賀状が突然来なくなり、その後、口伝の訃報が届いたのが3ヶ月ほど経ってからでございました。

 死因は…


 私は毎年彼の命日になりますと、彼のお墓の前に好物だったお菓子を沢山並べてこう言います。




 食えよ  食っていいんだよ

 もう誰にも遠慮なんかしなくていいんだよ
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桜川 久慶

Author:桜川 久慶
雑草ポエム、書籍化することができました。

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