どすこい 鬼が島!
【雑草(ポエム)ららばい 第613話】
力士の相撲人生を例えるならば…
両腕に重たい荷物を持ち切れないほど抱えた状態で、下りのエスカレーターを全力で駆け昇っているのに等しいものだと申します。
少しでも疲れて立ち止まろうとするその瞬間、一気に元の位置(地位)まで下ってしまうという、休む間もない 大変厳しい世界でございます。
そうした中で、『鬼が島』という厳つい四股名を持つ割に、全くうだつの上がらない弱い弱い序の口力士がおりました。
彼は内臓を患い、小学生の男の子(ケンイチくん)と合い部屋で入院しておりましたが、胃袋の肥大化した相撲取りでは少ない病院食に満足できず、厳しい看護婦さんの目を盗んでは好物の饅頭を隠れて食べておりました。
『コラッ 鬼が島! そんなことだから病気も治らないし、根性ないから相撲にも勝てないのよ!』
マメタンのように、身体の小さい看護婦さんが、大きなお相撲さんをどやし付けるその姿を、ケンイチくんは隣でいつも笑って見ておりました。
『う…うるさいオナゴ(看護婦)じゃのぅ、もう かなわんわぃ…』
鬼が島は哀しそうに呟きまして、持っていた饅頭をその場でポイッと捨てました。

時が経ち…
そんな口やかましいマメタン看護婦さんのお陰もあり、全快した鬼が島は目出度く退院の日を迎えましたが、同部屋のケンイチくんはまだ退院することができません。
『ほな ケンイチくん、ワシ 先に出るよって…また会おな!』
『うん、退院したら 鬼が島を応援に行くから!』
握手を交わす巨人と子供。
鬼が島は病院で一番世話になったマメタン看護婦の前へのそりと進み…
『看護婦さん…』
『なぁに?』
『わし…』
『ん?』
『わし…』
『…?』
『横綱になるけぇの!』
口下手な鬼が島の、真っ赤な顔をして絞り出した感謝の言葉でございます。
そんな鬼が島を、笑顔で見送っていたマメタン看護婦さんではございましたが、鬼が島の姿が見えなくなると同時に 大粒の涙を流していることにケンイチくんは気が付きました。
看護婦さんも淋しいのか?
いや、違います。
『かわいそうに…、あの相撲取りは期待できんだろう…』
『なにしろ、内臓がねぇ…』
主治医たちのそんな呟きを耳にしてしまったケンイチくん。
『鬼が島、頑張れよ! 絶対に 頑張れよ! おーにーがーしーまー!』
ケンイチくんは、その場から張り裂けんばかりの大声を出し、去りゆく鬼が島を応援したのです。
数ヵ月後…
ようやくケンイチくんも退院となり、真っ先に鬼が島の所属する相撲部屋へ向かいました。
が…
『鬼が島…? ああっ、あいつはもう故郷(くに)へ帰ったよ…』
『えっ…!』
『野郎 先場所、ついに1番も勝てんでなぁ…、やっぱ内臓がアレではなぁ…』
『お 鬼が島… 鬼が島…』
ケンイチくんは、その場で涙が涸れるまで泣きました。
あの日、とても哀しい顔をして、饅頭を捨てた時の鬼が島を思い出しながら…。
そして数年後…
高校生になったケンイチくんは、野球部員となって主軸を任される程の大活躍。
甲子園への出場を夢見る青春ボーイに成長し、地区予選大会の会場へ他の部員たちと歩き急ぐ道中でのこと…。
『アンタ、ま~たお店の商品を食べちゃったわね!』
どこかで聞いたことのある女性の声がすると思い、ケンイチくんは振り返りますと、【菓子屋 鬼が島】という店の看板が!
『まったく、昔からうるさいオナゴじゃのう…』
なんと、そこにはあの時の、どうしようもないダメ患者と、マメタンのように小さくて口煩い看護婦さんが夫婦となっておりました。
どすこい 鬼が島!
その日…
ケンイチくんはホームランを2本打った。
by 桜川
力士の相撲人生を例えるならば…
両腕に重たい荷物を持ち切れないほど抱えた状態で、下りのエスカレーターを全力で駆け昇っているのに等しいものだと申します。
少しでも疲れて立ち止まろうとするその瞬間、一気に元の位置(地位)まで下ってしまうという、休む間もない 大変厳しい世界でございます。
そうした中で、『鬼が島』という厳つい四股名を持つ割に、全くうだつの上がらない弱い弱い序の口力士がおりました。
彼は内臓を患い、小学生の男の子(ケンイチくん)と合い部屋で入院しておりましたが、胃袋の肥大化した相撲取りでは少ない病院食に満足できず、厳しい看護婦さんの目を盗んでは好物の饅頭を隠れて食べておりました。
『コラッ 鬼が島! そんなことだから病気も治らないし、根性ないから相撲にも勝てないのよ!』
マメタンのように、身体の小さい看護婦さんが、大きなお相撲さんをどやし付けるその姿を、ケンイチくんは隣でいつも笑って見ておりました。
『う…うるさいオナゴ(看護婦)じゃのぅ、もう かなわんわぃ…』
鬼が島は哀しそうに呟きまして、持っていた饅頭をその場でポイッと捨てました。

時が経ち…
そんな口やかましいマメタン看護婦さんのお陰もあり、全快した鬼が島は目出度く退院の日を迎えましたが、同部屋のケンイチくんはまだ退院することができません。
『ほな ケンイチくん、ワシ 先に出るよって…また会おな!』
『うん、退院したら 鬼が島を応援に行くから!』
握手を交わす巨人と子供。
鬼が島は病院で一番世話になったマメタン看護婦の前へのそりと進み…
『看護婦さん…』
『なぁに?』
『わし…』
『ん?』
『わし…』
『…?』
『横綱になるけぇの!』
口下手な鬼が島の、真っ赤な顔をして絞り出した感謝の言葉でございます。
そんな鬼が島を、笑顔で見送っていたマメタン看護婦さんではございましたが、鬼が島の姿が見えなくなると同時に 大粒の涙を流していることにケンイチくんは気が付きました。
看護婦さんも淋しいのか?
いや、違います。
『かわいそうに…、あの相撲取りは期待できんだろう…』
『なにしろ、内臓がねぇ…』
主治医たちのそんな呟きを耳にしてしまったケンイチくん。
『鬼が島、頑張れよ! 絶対に 頑張れよ! おーにーがーしーまー!』
ケンイチくんは、その場から張り裂けんばかりの大声を出し、去りゆく鬼が島を応援したのです。
数ヵ月後…
ようやくケンイチくんも退院となり、真っ先に鬼が島の所属する相撲部屋へ向かいました。
が…
『鬼が島…? ああっ、あいつはもう故郷(くに)へ帰ったよ…』
『えっ…!』
『野郎 先場所、ついに1番も勝てんでなぁ…、やっぱ内臓がアレではなぁ…』
『お 鬼が島… 鬼が島…』
ケンイチくんは、その場で涙が涸れるまで泣きました。
あの日、とても哀しい顔をして、饅頭を捨てた時の鬼が島を思い出しながら…。
そして数年後…
高校生になったケンイチくんは、野球部員となって主軸を任される程の大活躍。
甲子園への出場を夢見る青春ボーイに成長し、地区予選大会の会場へ他の部員たちと歩き急ぐ道中でのこと…。
『アンタ、ま~たお店の商品を食べちゃったわね!』
どこかで聞いたことのある女性の声がすると思い、ケンイチくんは振り返りますと、【菓子屋 鬼が島】という店の看板が!
『まったく、昔からうるさいオナゴじゃのう…』
なんと、そこにはあの時の、どうしようもないダメ患者と、マメタンのように小さくて口煩い看護婦さんが夫婦となっておりました。
どすこい 鬼が島!
その日…
ケンイチくんはホームランを2本打った。
by 桜川
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