母は強し 女三四郎


それは忘れもしない、生温い真夏の雨が降るしきる川崎の街…
まだ私が小学校へ入学したばかりのことでした。
生まれつき健康体であったはずの母親でしたが、無理な労働が祟って風邪を拗らせ、40℃以上の高熱が数日間下がらず、やむなく近所の町医者に入院することになったのです。
目を回しながらも歯を食いしばり、一生懸命働き続けた私の母親…。
肺炎を患ってしまいました。
季節はちょうど真夏の暑い盛りでございまして、昔ながらの町医者なものですから、作りは木造モルタル2階建てで、冷暖房設備など全くなく、待合室に扇風機が一台据付けられている程度の、実に質素な病院でございました。
5人部屋の病室内は、すでに温度計の針が33℃を指しており、他の入院患者は我慢ができず、病人の身でありながらベッドに寝て静養することもなく、涼しい廊下でオバちゃん得意のお喋り三昧…。
病室が実に不快で蒸し暑く、誰とてじっとしていられないのですが…
しかし、我が母親だけは 厚手の布団に身を包み、微動だにせず汗を流しながら一人静かに目を閉じております。
母親は 何と24時間、そして日数的には丸7日間もの間、その状態で辛抱しきり、薬の効力を高めたのです。
1日でも早く退院しないと、小さな子供が困るから…という、当たり前のような理由ではございましたが、その辛抱強さに医者が驚き…
『いやぁタカハシの奥さんには参ったよ…、タマゲタねぇ…』
母親は、他の誰よりも早く退院することができたのです。
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『子供のためなら何でもできる・・・命だって惜しくはない!』
母親たるもの、皆 同じ心境でございましょう。
父親の堪忍袋の尾が切れて、木製バットで幼い私を叩いた時、母親は蹲る私に覆い被さり、身を制して庇ってくれました。
『殴るなら私を殴れ!』
『この子を殺すなら、私を先に殺せ!!』
怒り狂った父親は 『どけっ!』 とばかりに構わず母親の背中をバットで打ち付けましたが、激痛に顔をゆがめるわけでもなく、『打つなら打て!』と言わんばかりに、私の肩をきつく抱いてくれたこと、今でもはっきりと覚えております。
あれから数十年の時が経ち、強い女もほどよく老いてしまいました。
私は現在、実家の母親に対しまして、常に本当の自分ではない、嘘の態度をとり続けております。
『自分は男である』 と思うがゆえに、母親と接することを極力嫌がり、意見をされればうっとおしく、邪魔者扱いすることも日常茶飯事…。
時には暴言までも飛び出して、何たるか親不孝な男でございます。
しかし、私にはよく解っております。
私の身代わりとなり、快く自らの命を捧げてくれる人…
それはこの世の中でただ一人、願ってそれができる人は、この母親 以外にはおりません。
厳しい社会や人間関係などに打ちのめされた時、極限まで追い詰められ、思わず誰かに縋りたいと感じた時…
『助けてほしい…』 と本気で縋りたいと思うのは、恥ずかしながら、やはりこの母親しかいないのです。
見た目は強がり、どんなに暴言を吐こうとも、心の中では泣きじゃくり、いざという時には包み込んでほしいと思っているくせに…。
その旨を 私は死んでも口にすることはできませんが、やはり いつまで経っても子供は子供でございます。
オフクロよ…
もう少し もう少しだけ アンタの子供でいさせてくれな…
by 桜川
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