勧進帳 安宅関


私は思います・・・
血の繋がりもない一人の人間に惚れ込み、その者に忠誠心を誓い、自らの命に代えてもお守りする・・・そのような律儀な人間が果たして現世に存在するのでありましょうか?
親が我が子のために、自らの命を犠牲にできるのは当たり前ですし、それが親と云うものでございます。
しかし、赤の他人様をお守りするべく、自らの命を投げ打てる人間は そうそういるものではございません。
武蔵坊弁慶
この大男は、九郎義経の直向な姿に、己の姿を見たのでございます。
今から約800年ほど昔、壇ノ浦の合戦で平家を打ち破った義経は、生来の猜疑心から これを退けようとする 征夷大将軍 源頼朝に追われ、奥州平泉へ落ち延びようといたしました。
一行全員が山伏の姿となり、追手に疑われないよう 弁慶自らが大先達、そして義経を やむを得ず強力(荷役人夫)姿に変えまして 安宅の関へと向かいました・・・が、そこの関守役である富樫左右衛門秦家に疑いをかけられてしまい、弁慶と押し問答となりました。
丁々発止のやり取りは止まるところを知らず、どんなに難儀な質疑を投げても交してしまう弁慶に対し、業を煮やした富樫は 弁慶が持っているはずの無い『勧進帳』 を出せと言い、いよいよ止めを差そうといたします。
これで勝負あったかに思われましたが、弁慶は白紙の巻物を笈から取り出し、胸を張って堂々と読み上げた(空読み)のでございました。
『そぉれ~つらつらおもんみぃれ~ば~・・・』
見事なまでに読み上げた弁慶。
しかし、眉目秀麗の義経が 関守の関口五郎の目にとまり、『こやつは義経公に似ている!』と咎められ、いよいよ絶体絶命の境地に追い込まれるのでした。
--------------------------------------------------------------------------------
人間誰しも、命を捧げるとまではいかなくとも、己の叶わぬ夢に向けて実直に行動しようとしている人間を 心から応援したくなったことはございますでしょう。
贔屓の力士しかり、野球選手しかり、それがファンの心理と言うものでしょう。
血の繋がりや、理屈を超えた愛着心・・・そのような人間に出会えた者は 幸せ者でございます。
窮地に立たされた弁慶は やむを得ず、義経を咎めるべく頭を足で踏みつけ、持っていた金剛杖で容赦なく打ち付けた。
『我が一行に、天下の大罪人の 濡れ衣を着せられるとは 許さん!』
弁慶は義経の背中を打ち続けました・・・涙を流しながら・・・心を引き裂かれながら打ったのです。
それを見た富樫は、この一行が義経の一行であることを確信しましたが、弁慶の主を思う心に打たれてしまい、関の通過を許したのです。
義経は弁慶を裏切らなかった。
最後の最後まで弁慶の心を変貌させることなく、主の姿でいてくれましたが、これもなかなかできることではございません。
全身に矢を受けて、立ったまま死んで逝った弁慶は、きっと幸せだったに違いございません。
実は以前、私にも同じようなことがございました。
夢に向けて一生懸命に邁進しようとしている素晴らしい人間と出会うことができまして、弁慶のように 己の姿を写すがごとく、全力でアシストしてあげようと努力を惜しまずしてまいりました。
しかし、所詮その人間は義経ではございません。
散々甘い蜜を吸われた挙句、最後の最後で裏切られてしまいました。
人間なんて、そんなものかもしれませんが、それでも私は人間しか愛せない・・・
真の人間に出会いたい・・・
by 桜川
◎雑草ポエムはこちらから↓(トップページ)
http://
◎ここでいただきましたコメントは、『雑草ポエム掲示板』へ転記させていただきます。
『雑草ポエム掲示板』↓
http://
(個人専用アイコンをお作りいたします)
◎前回までの雑草ポエムは、『雑草ポエム保管庫』にてお読みください。
『雑草ポエム保管庫』↓
http://
◎全ての雑草ポエムはこちらが便利!
『雑草ポエム目次』
http://
スポンサーサイト