阿 信 (おしん)



それは、私が大学に進学したばかりのことでした。
毎日通っておりました学食(食堂)で、やっと映っているようなオンボロテレビを眺めながら、連日マズイ昼食をとっていたのですが、悲しきかな そのボロテレビ、NHKしか映らないように設定してあるらしく、他のチャンネルを回してみましても、全て 『砂の嵐』 状態でございました。
私は元来、大相撲中継以外はNHKを好んで観るような人間ではございませんでしたし、ましてや主婦の楽しみたる 『連続テレビ小説』 など、まったく気にすることもございませんでした。
そんな時代に放送が開始されましたのが、史上名高い 『おしん』 でございました。
このドラマ、放送開始当初から大きな反響を呼び、連続テレビ小説では異例の 『放送中の再々放送』 の編成が組まれたほど。
また、この感動は日本国内に留まらず、アジアを中心といたしました海外にも多く輸出されまして、今でも各国で人気を博しているということであり、特に中国などでは 『阿信(おしん)』 と呼ばれ、高視聴率をマークしているそうで…。
1993年頃に台湾で放送された折には、何とシナリオ本が翻訳出版されたり、2003年10月にイラク復興支援のため日本から 『おしん』 を少女篇中心に提供することが決まったりしているという、あまりにも有名な日本の財産的テレビドラマの一つでございます。
当時19歳の私では、さすがに意味を十分に理解し、馴染んで観るようになるまでには、多少の時間は掛かりましたが、これがいつしか毎日の楽しみとなり、若い身空で 『橋田壽賀子の世界』 に すっかりのめり込んでしまっている自分がおりました。
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『おしん』 と申しますれば、やはり際立つのが 『天才子役』 と謳われました幼少時代の 『おしん』 を演じた小林綾子さんでございますが、私といたしましては青春期の 『おしん』 を見事に演じきった女優 田中裕子さんの方が、遥かに印象深く心に残っております。
そもそも 『おしん』 は1年間放送されました中で、幼少時代は僅か1クールにすぎず、田中裕子さんが演じました青春期の 『おしん』 は、何と倍の2クール。
ラストの1クールを、晩年役の乙羽信子さんが演じたことを考慮いたしましても、『おしん』 を最も長く演じたのは田中裕子さんでございます。
しかし、今でも 『おしん』 といえば 『天才子役』 というイメージしか残っておらず、『おしん』 イコール 『田中裕子』 と結び付ける人が、あまりにも少ないことに、私は個人的に驚いております。
田中裕子さんの 『おしん』、私は実に素晴らしかったと思っております。
この女優さん、プライベートでは覇気がなく、ポォ~っとしている物静かな人らしいのですが、一旦カツラを被り、監督の号令と共に 『カチンコ』 が キィーンと鳴った瞬間、身も心も骨の髄まで 『演じる人物』 に成りきることができるのです。
こうしたプロ根性の気質を持つ俳優(女優)というのは以外と少なく、どうしても自が出てしまい、本来の役に心底徹しきれないという 『にわか俳優』 が日本には多いのです。
一重目蓋の田中裕子さんは眼光鋭く、着物の裾を肌蹴ながら股を割り、中腰に構えて右手を突き出し、吐いた台詞が 『おひけぇなすっておくんなせぇ!』
極道者に商売のチャチを入れられた時、堂々と受けて仁義をかます 強い 『おしん』 のその姿は、今でも忘れることができません。
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映画評論家も絶賛した田中裕子という女優さん。
これはもう かなり昔の映画ではございますが、『ザ・レイプ』 というタイトルの異色作に出演し、タイトルのごとく強姦魔に襲われてしまうという衝撃的なオープニングシーンではございましたが…
必死の抵抗もむなしく、男の腕力にはどうすることも出来ないまま暴行されてしまうのですが、 ほんの一瞬… 何と田中裕子さんがエクスタシーの表情を見せるのです。
この瞬間を評論家が大絶賛したのです。
『この演技ができる日本の女優は他にいないだろう…』 とまで言わしめた程、女優 田中裕子さんの魂を高く評価するのはプロの目だからでございましょうか…。
巷では辛抱して大成した人物を 『おしん○○』 と呼ぶことがございます。(おしん横綱 隆の里とか…)
しかし、そう呼ばれる大半の人は男性ばかりでございまして、女性で 『おしん○○』 というニックネームを付けられた著名人はおりません。
これは摩訶不思議な話でございます。
そもそも 『おしん』 とは、昔の男の横暴さに平伏しているだけの弱い女性という立場を打開し、辛抱に辛抱を重ねて大成してゆく 『女性』 のサクセスストーリーではないですか!
少なくとも、その称号たるものを男性に付けるのは絶対に間違っていると私は強く思っております。
成人する直前にこのドラマと出会いまして、私は女性に対する偏見があったことを心より反省し、以降 そうした不埒な考えを持つことは無くなりました。
by 桜川
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