定時制高校



我々が現役の学生時代に描いておりました 『定時制高校』 のイメージというものは、『昼間働いて夜学ぶ勤労学生・・・16歳も40歳も同級生』 という、特殊なものでございました。
家庭の事情等で、若干16歳にして働かざるを得ない学生あり、はたまた、昔取得できなかった 『学歴』 という肩書きを、今こそ取戻そうとする中高年の学生ありと、生徒の顔ぶれもバラエティに富んでいるという、そうした学校空間を私は単純に想像しておりました。
しかし、現実には 『家庭の事情』 で働いている生徒は極めて少なく、ごく普通の環境で育ってきた生徒が多かったのには驚きました。
我々の世代(昭和39年生まれ)では、東京五輪時のベビーブームも手伝いまして、非常に生徒の数が多い上に 進学希望者も多く、各高等学校全てが 『狭き門』 状態ということもございまして、『あぶれ組』 という形で やむなく夜学を選択したという連中ばかりでございました。
私の通っていた高校でも、やはり2部の制度がございましたので、そうした連中とも仲良しになり、よく連れ立って遊びに出かけたりもいたしましたが…
たかだか高校1年生、年は若干16歳という身分。
私達(全日制高校へ通う者)は通常、親から定額の小遣いを毎月貰っておりましたが、金額的には5千円~1万円がいいところ。
たまに 『時給600円』 のバイトをしながらも、何とか青春時代を楽しむことができたのです…が
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ある日、定時制に通う友人から 『今日は会社からボーナスを貰えたからよぉ、皆でメシでも食いに行こうぜ!』 と誘われましたので、私はそれこそスキップしながら指定されたお店に到着いたしますと、なんとその店は高給鰻の専門店!
『あわわ…、お前 そんなに金を持ってるのかよ?』
すると友人はニヒルに微笑み…
ジーパンのポケットから掴み出した物は、 ビラッと現金16万円也!
『なっ・・・!』
私は言葉を失ってしまいました…
昭和55年当時の価値観で、16歳にして16万円の現金がポケットの中に入っていたとしましたなら、それはもう同学年の我々では誰しも驚いたに違いございません。
特に家が貧しいわけでもなく、その子の親とて息子が働いて稼いだお金など欲しい訳でもなく…
すなわち、自ら働いて手にしたお金ですので、その全てが彼らにとっての小遣いになってしまうのです。
『う…うらやましぃ』
私もさすがにこの時ばかりは彼らを本気で妬みました。
16万円・・・16万円ですよ。
大相撲の懸賞金でもあるまいに、たかだか16歳の少年が簡単に手にすることはできないでしょう。
しかし、いかなる理由がありましょうとも、働きながら定時制高校へ通うということは、並大抵の精神力では難しいということも十分に理解しておりました。
現金を掴んでいる彼の両手・・・
爪の奥までどす黒く汚れており、プレス工場に勤務する彼の掌は、すでに16歳の手ではございませんでした。
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我が母校(定時制)の場合ですが、1学年の定員120名、それがほぼ満杯の状態となり、全日制とは別の時刻に入学式を行いましたが、その約半数(60名)の生徒達は、何と1学期後の夏休みを境といたしまして、そのまま退学してしまうのです。
また、進級する度に(留年等で)減り続け、最終的に4年間ストレートで通いとおし、見事無事に卒業できるような生徒は、な…何と10名足らずだったという事実(我々の世代参照)。
卒業率が100%に近い全日制とは違い、定時制高校とは 『入りやすくて出にくい高校』 これが現実なのでございます。
卒業証書には定時制とも全日制とも記されておらず、その学校を対等に卒業した証といたしまして、本人に重く手渡されることになります。
卒業式は同じ場所で行いますが、卒業生代表の謝辞では、しらけムードの漂う全日制代表のものとは違い、定時制の卒業生代表には 自然とスポットライトが当たります。
その一言 一言が実に重く、我々に大変な感動を残してくれました。
私が卒業した年に、定時制の代表で謝辞を読み上げた生徒さんは、なんと38歳の中堅サラリーマンの方でした。
『私が家内と大喧嘩をしてしまい、ヘソを曲げて家を数日間空けていた時のこと・・・。 まだ小学生の息子が私を心配し・・・ お父さんはお家に帰ってこないけど、学校へはちゃんと行っているのかな・・・と、わざわざ夜の学校まで見に来てくれていたそうです・・・。 ○○くん、ありがとう・・・ お父さんはやり遂げたっ!』
涙を流しながらステージの中央で述べられていたこの言葉・・・
私は今でもはっきりと覚えております。
by 桜川
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