ダイナマイトパンチ


アイアン・マイクタイソン…
彼の本名は"マイク"マイケル・ジェラルド・タイソンというのがフルネームであり、身長は180cmという、世界を制したヘビー級の割には小柄なプロボクサーでございました。
タイソンは幼少時代から幸少ない環境で育ち、太っていたうえにチビという体格であったがため、よくイジメの標的になっていたようでございます。
彼の父親は物心付く頃には蒸発しており、母親も16歳の時に亡くしているという孤独で切ない少年時代を過ごし、その持っていきようのない寂しさを紛らわせるため、少年院に出入りを繰り返すようになったのも、いたしかたのないところでございましょうか。
そんな彼の潜在能力を見抜き、救いの神のごとく現れたのが名トレーナー、カス・ダマト氏でございました。
この出会いにより改心したタイソンはめきめきと頭角を現し、一気に世界の頂点へ駆け上がる勢いに乗ったのです…が
そんなカス・ダマト氏もタイソンが19歳の時に亡くなってしまい、これでタイソンは父親と母親、そしてカス・ダマト氏という3人もの 『親』 を失ったことによりまして、その後はまるで自分を見失ってしまった 『子供』 になってしまった…と、本人は後に振り返っております。
世界的なチャンピオンでも、精神年齢は中学生…
ダイナマイトパンチと呼ばれる推定250kgの破壊力を誇るストレートパンチ、その一撃だけで相手の大きなヘビー級のボクサーが白目を剥いてひっくり返る。
リーチが180cmという不利な条件も関係なく、接近して下から脇腹をフック、そのままアゴにアッパーを放つという連続パンチで相手を翻弄。
強い、いや…強すぎる!
世の中に怖いものなど無くなってしまった最強ボクサー。
ファイトマネーは桁外れに膨れ上がり、まさに全盛期の彼は天下無敵のキングコング。
彼の人気(知名度)は世界中を駆け巡ることになるのですが…
所詮、アタマの中身は中学生レベルであるがゆえに、基本的な口のききかたも知らない大馬鹿野朗。
対戦相手を詰り、蔑み、記者の質問にも全てけんか腰で吠え捲る。
日本に初来日した時、日本のスモウレスラーと話がしたいという本人の我侭で高砂部屋へ出向き、当時大関だった巨漢の小錦と稽古場で胸を合わせたタイソンは…
『重てぇ~…、コイツ何食ってんだよ?』 と上機嫌だったと申します。
しかし、天下の大関をコイツ呼ばわりするとは恐れ入谷の鬼子母神。
当然のごとく、そんなタイソンに大きな天罰が当たったのは、僅か数年後のことでございました。
タイソンの末期は、まるで自己破産そのもの…
かつてのカス・ダマト氏のように、彼を正しく導いてくれる人が側にいてくれたならば、ボクサーとしてのタイソンはもっと輝かしい栄光を掴んでいたに違いなかったと思います。
全盛期の時代…
もうどんな物でも手に入るような大金を稼ぎ捲っていた頃の事、ある新聞記者の質問に対し、惚気ていた彼が一瞬沈痛な面持ちになったことがございました。
その質問とは…
『今、一番ほしい物は何ですか?』
すると、タイソンはうつむき加減で…
『family…』
それは…
マイクタイソンが一番飢えていたものなのかもしれません。
by 桜川
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