三沢の死に 想う・・・



【雑草ポエム 第312話】
先日、プロレス団体『ノア』の社長で人気レスラーの三沢光晴さんが、不幸にもリング上にて亡くなってしまいました。
私は学生時代から初代タイガーマスク(佐山 聡)に憧れており、学園祭でも自らタイガーマスクになりきっていたこともございまして、2代目タイガーマスクとして全日本プロレスに登場した三沢選手を好きになることができませんでした。
しかし、早々に自らの意思でマスクを取り、正々堂々と正体を明かして戦う三沢選手の男気に惚れ直し、以降、私は注目して三沢選手を応援するようになりましたが、近年のプロレスリングに対しまして興味心が薄れてしまい、めったにTV中継などを観なくなってしまいました。
昔はプロ野球や大相撲と肩を並べ、TVでもゴールデンタイムに放送されるなど 『花形スポーツ』 といたしまして人気を得ていたはずの日本プロレスではございますが、最近はどの団体のものを掻い摘んでみましても本当に駄作ばかりでつまりません。
しかしその一方で、WWE(アメリカのプロレス)などのTV中継(CS)となりますと、これは大笑いしながら観てしまうのですから不思議です。
なぜならアメリカプロレスの場合、くだらないことを真剣にやっている…という妙な面白さがあり、下手なお笑い芸人よりも遥かに笑わせてくれるレスラーも沢山存在するからでございます。
勿論、中には盛り上がっている雰囲気を逆に盛り下げてしまうダメなレスラーもおりますが、笑いあり、ミステリーあり、友情物語ありという豪華さで、大いに楽しませてくれるのです。
特に目を見張ったのは、悪役がしっかり悪役になりきっているということ。
先日、プロレスファンの知人と話した時も、日本のプロレスには強烈な悪役がいなくなってしまった…とぼやいておりました。
蝶野選手は新日本プロレスでは代表的な悪役レスラーのはずなのですが、テレビのバラエティ番組で見かける様子などからして、とても悪役には見えません。
私が子供の頃見ていてたプロレスでは、ブッチャーなど本当に怖い悪役がおりました。
テリー・ファンクの腕にフォークを突き立て、顔中を血だらけにして暴れているブッチャーの姿は本当に恐ろしく、そのうち本当に誰かを殺してしまうのではないかと幼心に震えたものでした。
ブルーザーブロディなどは入場の時、鉄の鎖をブンブンと振り回して大暴れ。
スタンハンセンにいたしましても、太いロープで観客席に鞭を入れるという恐ろしさ。
花道付近のお客様が怖くて逃げ惑っているということも、今にして思いますればファンサービスの一貫だったに違いなく…。
本当に怖い悪役がいるから、それに立ち向かうレスラーが格好良く見えたのです。
テリー・ファンクはブッチャーにフォークで腕を突き刺された試合の後も、五寸釘で頭を滅多打ちにされて血みどろになりながら、果敢にブッチャーと戦っておりました。
ドライな父親は 『試合が終わったら、一緒のバスで帰って一緒に酒を飲むんだぞ』 と言って嘲笑っておりましたが、それが本当だといたしましてもリング上で見せる狂気と、それに立ち向かう勇気に子供心は奮えたものです。
今のプロレスには、リング上で恐怖を感じさせる役者が不足しているように思います。
もっとも、悪役が不足しているのは日本のプロレス業界だけではなく、映画や演劇においてもそう思いますので仕方がないのかもしれませんが、WWEでは趣向を凝らし、上手に悪役を作っているように思えました。
もちろん善と悪の戦いだけでは話しが続かないので、嫉妬や誤解などによる痴話げんかみたいなものや、控え室で正体不明の男に選手が襲われるといったミステリータッチの演出もこらしていて、楽しませる工夫があちこちに見られましたし、そういう意味では昔の日本のプロレスでもそうしたストーリーで観客を楽しませる術はあったはずでございます。
私がプロレスファンの友人に、『プロレスラーは、アスリートよりも芸人に近いのでは?』と尋ねますと、『その芸人の芸がマンネリ化しているうえに、上手い芸を見せてくれる人が減った』と言っておりました。
素人が見てもどちらが痛いのかわからなく、明らかに相手の協力が必要な複雑な技を連発するようになった時、プロレスは特化したオタク化が始まり、総合格闘技への挑戦によってプロレスラーが強いという幻想が飛散したように思えてなりません。
強さを見せる芸に特化するのか、エンターテーメントに特化するのかどっちつかずとなり、宙ぶらりんのように見えますし、そうした中で、過激な技の応酬を掲げていたノアの三沢選手が亡くなったのは、実に象徴的だったようにも見えます。
日本のプロ野球会が衰退している原因の一つとして、未だに長嶋・王の両名を超える選手が出てこないのと同じで、日本のプロレス界もジャイアント馬場とアントニオ猪木を超える選手が出てこないという所に、私は問題があると思っております。
彼らの存在価値は特別であり、何にもせずにリングに上がっているだけでお客がお金を置いていく…
馬場が『アッポ~!』と言えば、猪木が『ダァー!』
お客が単純に喜んでさえくれればそれでいいのです。
それこそが『プロ』のレスラーだと思います。
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