横綱 千代の富士物語

【雑草ポエム 第410話】(頑張れ大相撲! 特別作)
第58代横綱 千代の富士 貢(みつぐ)… 本名を 秋元 貢さんと申します。
『親方、アンタの故郷に逸材がいるぞ!』
貢少年の非凡な才能を見出した関係者から情報を聞きつけた九重親方(元横綱 千代の山)は、力士としての上京を嫌がる貢少年を自ら説得するべく、北海道福島町の自宅まで足を運びました。
しかし、故郷の英雄『千代の山』が何度足を運びましても、いくら上手に説得を試みましても、いかんせん嫌がる貢少年の意思は鉄のごとく固いことや、大切な長男を連れて行かれるのを拒む両親の同意も得られずじまい…。
『どうか、お引き取りください…』
深々と頭を下る、貢少年の父。
(やはり… だめか…)
半ば諦めムードで引上げようとする 九重親方。
肩を落としながら玄関を出ようとしたその時…!
(そうだ!)
『貢くん、いちど東京へ遊びに来てみないか… 飛行機に乗って!』
『ひ… 飛行機に乗って?』
とっさに飛び出た親方の発言に動揺した貢少年ではございましたが…
『い… 行く、オレ… 東京に行く!』
悲しきかな 貢少年は『飛行機に乗ってみたい』という理由だけで、(東京へ連れてきてしまえば何とかなる!)という親方の策略など知る由もなく、簡単に上京を承諾してしまったのでございます。
『あ~… ではお父さん、そういうことですので 夏休みになりましたら息子さんをお迎えに参じます よろしく…』
先代九重親方は満面の笑みを浮かべて挨拶し、玄関を出ようといたしました…が、小柄な父親の松夫氏が 大男の胸倉をヒシっと鷲掴みにし、何とも恨めしい声を絞り出してこう言いました。
『アンタ… いつもそういう手を使って… 人様の大事なセガレを奪っていくのか…!』
先代九重親方は、厳しい表情で無言のまま父親の手を振り解き、東京へ帰って行きました。
生まれ持った鋭い目付き、心臓に毛が生えているとまで言わしめた図太い神経から、付いたあだ名が『オオカミ少年』
命名者は 部屋の横綱『北の富士』であり、後に『ウルフ』と改名されました。
千代の富士という四股名は、先代九重親方(千代の山)の、最後の『千代』を受け継ぐものでございました。
千代の富士の才能を見出し、強引に東京へ連れてきた九重親方も病には勝つことが出来ませんでした。
『あ~あ… ひゃっこいビールが飲みてぇなぁ…』
大好きなビールも口にすることができず、千代の富士の快進撃を見る事も無く、眠るように逝ってしまいました。
その後、千代の富士の大活躍は言うに及ばず、大相撲ファンであれば周知の通りでございます。
心・技・体(度胸、スピード、パワー)、そのどれを取っても超人的であり、まるで運命の女神に贔屓されているかのように 連戦連勝の日々が続きました。
しかし、度重なる脱臼、愛娘の突然死など、必ずしも幸多かれの相撲人生ではなかったことも事実でございます。
愛娘(愛ちゃん)の突然死…
ゲッソリとした身体に大きな数珠を巻き付けて、神妙に場所入りする横綱千代の富士。
悲しみを乗り越えつつ上がった名古屋場所の土俵で勝ち進み、千秋楽におきまして優勝決定戦に挑んできましたのは…
何と…、同部屋の弟弟子、横綱北勝海でございました。
注目の同部屋・兄弟弟子対決…!
結果的には、立会い鋭く踏み込んで組みとめた千代の富士の圧勝劇に終わりましたが、土俵下に転げ落ちた弟弟子の北勝海を、何とも言えない悲しい表情で見つめていたウルフの表情が忘れられません。
さらに、勝ち名乗りを受ける際、NHKの向坂アナウンサーが思わず『愛ちゃん、見てくれ・・・という思いでしょう』と言い、同時に千代の富士が一瞬涙目になって天井を見上げる仕草をいたしました。
人間 ウルフ 千代の富士。
体力の限界という理由から 引退を表明する際、思わず声が詰まり、熱い涙がこぼれ落ちてまいりました。
大相撲界初の国民栄誉賞を受賞。
燃える涙は 零れ落ち…。
♪ 幸せへと たどり着く 近道は 知らない
限りのない 毎日に 悔いは残さない
喜びと 悲しみ 背中合わせ
燃える涙は こぼれおち ♪
by 桜川
(雑草ポエム第4話 『燃える涙』 リニューアル版といたしました)
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