人生最悪のレース(ガブリエラ・アンデルセン)

【雑草ポエム 第491話】
それは1984年…
真夏のロス五輪におきまして、今大会から正式種目となりました『女子マラソン』の競技場、一人の女性ランナーが全世界からの大声援を受けました。
五輪・女子マラソンの初代チャンプとなりました、アメリカのジョーン・ベノイト選手が、歓喜のゴールラインを通過してから20分後…
ふらつきながら競技場まで辿り着き、朦朧とする意識の中で ひたすらゴールを目指して走ろうとする女性ランナーが、大観衆の目をくぎ付けにしたのです。

それは、ガブリエラ・アンデルセン選手…
世界的には全くの無名、スイス代表のマラソン選手でございます。
『重度の熱中症だ…』
トラックサイドの係員が『レースを棄権せよ』と促しますが、アンデルセン選手は断固としてゴールする意思を表明。
側にいた医師も、アンデルセン選手の流れる汗を見たうえで続行を判断。
『大丈夫、最後まで走らせてあげなさい…』
不安が感動に変わり、やがて大歓声となって、アンデルセン選手を全世界の人々が後押ししたのでございます。
右足はほとんど動かず、腕も垂れ下がったまま…。
ただ気力だけでゴールラインに向かうアンデルセン選手ですが、一度倒れてしまったら、もう自力で立ち上がることはできません。
何度もよろめき、倒れそうになる…。
係員も、そのたびに手を貸そうと右往左往。
(第三者が手をかけた瞬間に『失格』となってしまいます)
夢遊病者のごとく、ただ前に進む 進む…。
そしてついに大歓声の中、見事にゴールラインを割ったアンデルセン選手は倒れ込み、衰弱しきったその姿に多くの称賛を受けまくりました。
私は、そんなアンデルセン選手の姿に感動した人間の一人ではございますが、彼女が最も素晴らしいなと感じましたのは、レース後のコメントでございます。
『37位入着の私を報道するのはおかしい』
『優勝者や、最後まできちんと走った選手をもっと評価するべきです』
そして、後の自伝にて彼女は最後にこう記述しております。
『あのレースは、(マラソン)人生最悪のレースでした』
けっして、同情をかうために完走したわけではない…
彼女のそんな思いが伝わってくる、見事な一文でございました。
27年ぶりに動画を見まして、弱気な心が引き締まった私です。
by 桜川
スポンサーサイト